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本を読むって、面白いしためになるし、ほかの人にも伝えたい。だけど良さを伝えるのって難しい・・・少しでも読んだ本たちの魅力が伝わりますように。

【人生結構楽しいんじゃない?】「彼女について」感想

よしもとばなな節炸裂の一冊

久しぶりに小説読み切りました。

『彼女について』よしもとばなな著、文藝春秋、2008年

 

彼女について (文春文庫)

彼女について (文春文庫)

 

 

 あらすじはコチラ

由美子は久しぶりに会ったいとこの昇一と旅に出る。魔女だった母からかけられた呪いを解くために。両親の過去にまつわる忌まわしい記憶と、自分の存在を揺るがす真実と向き合うために。著者が自らの死生観を注ぎ込み、たとえ救いがなくてもきれいな感情を失わずに生きる一人の女の子を描く。暗い世界に小さな光をともす物語。 

amazon商品紹介ページより)

この前まとめ買いしてからずっと積読してましたがようやく読み終わりました。

(つまり時間を忘れて読むタイプの本ではないということ)

 

好き嫌いははっきり分かれる作品だと思う。

小説に、エンターテイメント性を求めてスッキリ爽快に読みたい人には全くお勧めできない。

逆に本から、なんらかのメッセージ性とか、日常生活への気づきを得たい人にはいいと思う。特に、よしもとばなな作品は日常生活風景の比喩表現を使った描写が本当に丁寧で、滑らかに入ってくるから。

初めの数ページで「ああ、よしもとばなな作品だあ~」と懐かしくなる。

それくらい雰囲気で読ませてくる。

 

私は、どちらかというとストーリー性よりも、よしもとばななのそういう文章表現が好きで読んでる。人と人との関係性とか言葉を重ねて対話をしていく様子とか。

あとは、なんてことない日常生活をきらきらした情景に仕上げる表現力ね、本当素敵。

 

 

ぼんやりしたあらすじからもわかるように、この本は(わりとこの本に限ったことではないけれど)壮絶BADな過去をもつ女の子が、蓋をしてた最悪な人生をもう一度洗いなおしながら「私の人生」を見つめていくわけですが、

 

そもそも、途中までは話の着地点が読めないし、結局どうなるんだろう・・・

とノロノロ読み進める。

そうすると、終盤にさしかかってきてようやく全て納得できる。そんな話。

お話の核心部なので、そこには触れないですがぜひ途中であきらめずに最後まで読んで納得していただきたい1冊です。

 

最後まで読んだとき、きっと「暗い世界に光をともす」の意味がすっとわかる。

ろくなことがないような人生も、日常をしっかり見つめたら実はいろんなところで人に助けられて、綺麗なものや優しい気持ち支えられてきたんだよ。

ていうのが随所に散りばめられてる。

 

 

登場する男性がとにかく素朴ないい男

 

あともう一つ。

基本的に全作品に共通するのが登場人物たちの人柄。

女子は、小さいころから結構ませててそれなりに恋愛遍歴を重ねてきた「普通」だけどさばけたいい子。

 

そして男性は、素朴でちょっとだけダサいところがありつつ不器用なところもあるけど、基本的に丁寧で優しさがある家族思いな人。(全部読んだわけじゃないけど大抵そういう感じ)

 

多分、BADでハードな人生を送ってきたのであろう作者の経験がうっすら反映されているんじゃなかろうか。と読むたびに勝手に思ってる。

 

とにかく包容力のある優しくて健全な男性が多く出てくるイメージ。

こういう男性像は女性作家でないと書けないだろうなあ。

 

 

文章がまどろっこしいと感じる人もいるでしょうが、

私はこの空気感を感じたいがためによしもとばなな作品をついつい手に取ってしまうので、同じように思う方にはぜひお勧めしたい。

 

以下、読んでて「本当にね・・・」と思った箇所をいくつか引用。

「こんなふうにずっと、昇一と黙っていっしょに朝ご飯を食べることができたらいいのにね、と私は思った。なんだ、生きているってこういうことなんだ、これでいいんだ。ママのしでかしたことのせいでもっとすごいことを成し遂げなくっちゃいけないのかと思っていたし、それができないのなら、ずっと頭を低くして毎日を送らなくちゃいけないのかと思っていた。でもそんな大それたことではなく、ただ久しぶりに会ったいとこと旅をしたりちょっといいホテルで朝ご飯を食べたり、それをこの体で消化したり、今日一日の始まりを静かにこの目でみたり、それでいいんだな、これが人生のほとんど全部の要素なんだ、そう思った。」 

(p156)

 

 

他にもたくさんあるんだけど、あえて抜粋するともう一つ。

 

(土台とは)「この世は生きるに値すると思う力よ。抱きしめられたこと、かわいがられたこと。それからいろいろな天気の日のいろいろな良い思い出を持っていること。おいしいものを食べさせてもらったこと、思いついたことを話して喜ばれたこと、疑うことなくだれかの子供でいたこと、あったかいふとんにくるまって寝たこと、自分はいてもいいんだと心底思いながらこの世に存在したこと。少しでもそれを持っていれば、新しい出来事に出会うたびにそれらが喚起されてよいものも上書きされて塗り重ねられるから、困難があっても人は生きていけるのだと思う。

(p165)

 

言葉の選び方がいちいち素敵なんだけど、そういう言葉をしっかり受け止めて健全な男性陣もまた、いちいち素敵。

なんだか私の個人的な好みの話になってしまってそんなことはどうでもいいんですが、こういう文章、雰囲気で本選びしてみようかなという方には、ぜひお読みいただきたい本でした。以上。